(英訳名: Chronogenesis: how the mind generates time)
我々は過去と現在と未来を区別しながら生きている。ヒトで特に発達したこの時間の意識-こころの時間-はどこからどのように生まれるのか。先行領域「こころの時間学」領域における5年間の学際研究は多数の優れた論文を生み出し、当初掲げた3大目標を達成する成果を挙げた。
図1 先行領域の3成果が出発点
成果1. 大脳皮質内側面に「未来―現在―過去」の時間地図を描き出すことに成功した。
成果2.実験動物研究で開発された「こころの時間」の操作法を臨床応用につなげた。
成果3.エピソード様記憶の系統発生と個体発生を明らかにした。
先行領域の成果をふまえて、さらに一層の飛躍を図るために、新たに時間情報を生成する「人工神経回路」を構築して対照として用いる。比較を通じて1)「時の流れ」の意識が生れる過程、2)脳内の周期的な「時を刻む」活動が時間の意識や運動のリズムを生み出す過程、3)発達や進化とともに「時を獲得する」過程、4)病気に伴って「時を失う」過程、の4過程を神経回路のレベルまで掘り下げて明らかにする。
本領域には5つの計画研究班を設ける。中心のA01「作る」班は、自然言語を入力として、記述されたイベントの時間順序を出力する人工神経回路を構築する。さらに、4つの学際的な計画研究班が 1)「時の流れ」の意識が生れる過程(B01)、2)脳内の周期的な「時を刻む」活動が時間の意識や運動のリズムを生み出す過程(C01)、3)発達や進化とともに「時を獲得する」 過程(D01)、4)病気に伴って「時を失う」過程(E01)、の4過程を神経回路のレベルまで掘り下げて明らかにする。
図2 「時を作る」エンジンと4枚のプロペラで飛躍する
図3 期待される5つの成果
2. 脳と人工神経回路を比較して時間情報処理の実体を解明する
3. 楽しい時間はなぜ早く過ぎるのか、にも解答
4. 認知症など時の障害の予防・治療法を開発する
5. 時の意識の進化と発達の過程も解明
有機的な連携を通じて5個の成果を得ることを期待している。
(1)「こころの時間」の機能を発揮する人工神経回路を構築する。
(2) 大脳皮質内側面の未来―現在―過去」の時間地図の機能と生成の仕組みを明らかにする。
(3)「思い出が懐かしいのはなぜか」「楽しい時間はなぜ速く過ぎるのか」などの日常の内観と神経活動の関係を明らかにする。
(4) 新たな時間の操作法を開発し、認知症の早期診断や症状改善などへの応用を進める。
(5) ヒトとヒト以外の動物、成人と子供、の共通点と相違点を具体的に解明する。
本領域の成果は、時間の意識が失われる認知症などの疾患の治療に応用されるだけでなく、「楽しい時間はなぜ早く過ぎるのか」といった日常の疑問に神経回路に即した科学的な回答を与えることを通じて、一般社会にも広く還元される。
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