時間的な知識を事前学習の監督とする事前学習方法
Masked Language Model は、膨大な量のテキストから文脈に沿った単語表現を学習するのに有効です。しかし、'[MASK]'はランダムに選択されるため、直接に時間的な情報を学習することはできません。我々は、テキストから自動的抽出する時間的な知識を、事前学習の監督として適用することを提案する。既存の研究と比較して、本提案は明示的または暗黙的な時間的知識を自動的に抽出して、豊かな知識監督を提供することができます。提案した事前学習方法は、時間幅、頻度、順序情報の分散表現を得ることができると期待している。
楔前部の神経束ネットワークの構造学的解析
楔前部(Precuneus)は、先行領域「こころの時間学」で明らかとなった大脳皮質内側面の「未来―現在―過去」の時間地図の中心に位置する。ヒト脳では頭頂葉の後内側部に位置し(図A)、ブロードマン領域(BA)の7野の内側に相当する(図B)が、その神経束ネットワークの詳細は不明である。本研究の目的は、ヒト脳の白質解剖(図C)および神経束追跡法(Tractography)(図D)により、楔前部と内側 側頭葉や前頭葉などを結ぶ神経束(図C①②)を、『現在と過去、未来の時間の流れの意識の神経基盤』の一部と捉え、その神経束ネットワークを構造学的に解明することである。加えて安静時ネットワークとの関連も解析したい(図E)。
機械の時間と生命の時間
機械の時間と生命の時間の違いを考え、生命システムに生まれるひとつの時間軸が、 エピソード記憶の持つ無数の時間軸の集合から生まれてくることを実験・議論し、 M T M = Mind Time Machineというシステムに実装する。具体的にはMTMに入力され記憶された無数のエピソード記憶は、「潜在空間」のなかに無関係に散らばってしまう。このエピソード記憶をある無矛盾な一貫したロジックでつなぎ合わすことで時間が生まれる。この仮説を、MTMをつくることで証明しようというのが、本研究目的である。
また人間の視覚認知は時間の知覚と表裏である。人の知覚は、frame per second といったフレーム・ベースではない、と構造的には思われる。それを検証し、機械の視覚と人間の視覚システムの違いを明らかにする。
神経活動の時間的ダイナミクスに埋め込まれる未来の運動情報の研究
「選択肢が複数あるとき、各選択肢の持つ価値を比較し、最も価値の高いものを選択する」。それが脳で行われている計算だと考えられています。しかし、私たちの日常生活では「どっちを選んでも大した違いはない」という状況も多く存在します。では、そのような時でも、詳細な価値比較に基づいた判断が脳では行われているのでしょうか?本研究では、価値計算に依存しない、意思決定時の脳活動の「偶然の」ダイナミクスに依存した意思決定様式の存在を明らかにすることを目標とします。
霊長類の行動タイミングを制御する脳領域間ネットワーク連関の光計測と制御
「飛んで来るボールに合わせて手を伸ばす」。ある瞬間の環境の情報を手掛かりにして、その後の行動を決定するためには環境の変化を予測して、適切な行動を適当なタイミングで実行する必要がある。タイミングを計っている時には脳の様々な領域で、神経活動が継続して増強あるいは減弱し続ける活動が見られ、この神経活動がある閾値を超えた時、動物は行動を起こす。しかし、環境からの入力がどのようにこれらの神経活動を誘発して、適切なタイミングで行動を起こす事ができるようになるのかについてはよくわかっていない。本研究は、環境情報を手掛かりに行動を実行する時の大脳皮質領域間の情報フローを2 光子イメージングと光遺伝学による神経活動操作法を用いて実際に霊長類の大脳皮質で計測し、検証する事を目的としている。
時間感覚と睡眠・覚醒リズムを形成する神経基盤の解明
現代の時間生物学の基盤を創ったユルゲン・アショフは、ヒトの体内には自律的におよそ24時間周期で振動する時計、「概日時計」の存在を発見し、体温と睡眠・覚醒の概日リズムが乖離する事を報告した。これを「内的脱同調」と呼ぶ。その中で、ヒトの時間感覚は睡眠・覚醒のリズムに影響を受け、体温リズムには影響を受けないことを提示した。つまり、ヒトの“時間”は体温調節系と睡眠・覚醒調節系の2種類存在し、それぞれ異なるメカニズムで生体の“時間”が調節されていると言える。本研究では、光操作、光計測、神経トレーシング、in vivoゲノム編集を組み合わせ、視交叉上核を起点とする、睡眠・覚醒リズムと体温リズム調節に関わる神経回路を明らかにし、ヒトが持つ異なる2つの時間の存在意義に迫る。
過去の感覚情報を未来の運動制御に活かす神経機構の生成と解明
我々動物が生存していくためには、時々刻々と変化する環境に対して適切なタイミングで行動をする必要があります。しかし我々の身体には生理的な時間遅れが存在しているため、いつも感覚情報を確認してから行動していてはダイナミックな環境変化についていくことが出来ません。そのため我々の中枢神経系は何らかの方法で自分の行動の結果(未来)を予測して運動指令(現在)を決定していると考えられます。それでは私たちの中枢神経系はどのような神経メカニズムによってこのような予測に基づく運動制御を実現しているのでしょうか?本研究では1) 過去の感覚情報から身体状態を推定する「人工神経回路」を構築し、さらに2) 前頭-頭頂皮質の神経活動記録や操作と組み合わせることで、予測に基づく運動制御がどのような神経回路によって実現しているのかを明らかにします。
事象の終わりを表現するセルアセンブリの機能解析
経験した出来事の中で「いつ」や「どこ」といった時間や場所を含むエピソード記憶には海馬が必要です。その海馬では、事象に従って時系列に活動を示す細胞群が存在します。これは時間細胞と呼ばれ、決まった長さの多くの事象に対し、数秒または数分単位で時間生成を行う事が知られています。しかし、多くの出来事の時間は一定でないため、時間細胞だけがエピソード記憶の時間を規定するかわかりません。異なる事象時間を規定する別の細胞での表現が必要と考えられます。我々は、in vivo二光子イメージングと仮想現実システムを用い、海馬に、事象の終了後に時間特異的に活動する細胞群(セルアセンブリ)を発見し、事象終了細胞(Time-up cells)と名付けました。それは事象の時間をランダムに変えても終了時にいつも反応しました。本研究は、Time-up cellのセルアセンブリがどのように形成されるか、そして、時間生成にどんな機能的役割を持つかを明らかにします。
タイミング予測を司る前頭前野-小脳連関の神経回路基盤
ヒトには時間を正確に計る計時機能が備わっており、精神疾患ではそれが障害されることが知られている。では脳はどのように時間を計っているのか。高次脳領野である前頭前野には秒単位の情報を保持する作業記憶機能が備わっている一方で、前頭前野と密に連絡する小脳の外側部は、絶対的な時間である内的時計機能を持っていると考えられている。これらの脳領域が協調することで、正確な計時に基づく行動が支えられていると考えられるが、その回路基盤は不明である。本研究では、タイミング課題を行うマウスにおいて、2 軸2 光子顕微鏡を用いて、小脳皮質と前頭前野皮質の神経細胞集団活動を同時に計測することで、タイミング予測を生み出す大脳小脳連関の回路基盤について解析する。さらに、前頭前野皮質と小脳皮質の双方における光遺伝学的な介入を行うことで、これらの活動と計時機能の因果関係を探る。
脳結合操作による時間情報処理ネットワークの因果的解明
我々の日常生活では、会話の「間(ま)をとる」、スタートの「タイミングを見計らう」など、多くの場面で時間の長さを推定し、未来のイベントの予測や行動の計画に役立てている。従来の研究では、時間情報を表現する脳領域の特定とその役割が盛んに検討・議論されてきた。その一方、近年の研究では、脳領域間の情報伝達こそが時間知覚に重要である可能性が示唆されてきている。そこで本研究では、ヒトの脳における時間情報の伝達経路の特定と、その主観的時間に対する役割を明らかにすることを目的として研究を行う。まず脳機能イメージングや脳磁図を用いて時間情報の伝達経路とそのダイナミクスを明らかにし、そして皮質間対連合刺激(ccPAS)といった手法によって脳領域間の機能的結合性を操作することで、時間知覚に与える影響を検証する。これにより時間情報処理ネットワークと主観的時間の因果的解明を目指す。
発達期の展望記憶の成功と失敗に関わる脳内ネットワークのダイナミクス
展望記憶は、約束を思い出して時間を守るというような、将来実行すべき意図を適切なタイミングで思い出す未来の予定記憶である。これは社会性の発達、獲得という点において子どもにとっても重要である。その脳内基盤、メカニズムについて、つまり展望記憶の獲得、発達段階の研究はまだない。本公募研究では、機能的磁気共鳴画像法による安静時脳活動計測を用いて、子どもの脳活動の個人特性を検出し、発達期の展望記憶の成否に対応するメカニズムを解明する。日常場面に近い展望記憶課題を子どもに実施して、意図を適宜モニタリングしつつ、適切なタイミングで自発的な意図想起ができる子どもと難しい子の脳活動特性の差異、年齢による発達的変化を検討する。また、未来に実行する意図を保持し続ける安定したネットワークと、別の課題に従事しつつ意図処理とを行き来するダイナミクスがあることを仮定し、時間的脳結合動態、機能的脳結合のダイナミクスを明らかにする。
脳の時間の単位の進化:哺乳類6種における無侵襲脳波記録による検討
脳への感覚入力は、一定の時間窓(時間幅)で時間的に統合されて知覚される。例えば聴覚では、数100 ミリ秒の時間窓が単位となり、この時間窓内の刺激はひとつの聴覚イベントに統合されて聞こえる。/pa/のような子音と母音からなる音節は、あくまでも全体として/pa/と聞こえるのであり、/p/と/a/に分けて聞くことは努力しても困難だ。このように、時間統合窓は知覚の時間分解能の上限を規定し、大脳高次機能の時間を刻む単位のように機能する。
時間統合が神経回路網の機能であることを考えると、時間統合窓の長さに種差があっても不思議ではない。知覚の時間窓が進化でどのように変化したか(あるいはしなかったか)は、脳の時間の進化を考える上で、根本的な問題である。しかし、知覚の時間窓に種差があるかもしれないという可能性そのものが、これまで検討されたことがない。
そこで本研究は、ヒト、チンパンジー、マカクザル、マーモセットの霊長類4種、およびイルカとウマといった大型の哺乳類を対象とした聴覚誘発電位(AEP)の無侵襲記録により、時間処理がとくに重要な聴覚について、脳の知覚の時間窓の進化を明らかにする。無侵襲AEPは、ヒトの実験を厳密に同じ形で様々な動物に適用できる強みがある。ヒトで聴覚の時間窓を反映することが知られているAEP 成分の指標を種間で比較することで、聴覚の時間窓の種差を明らかにしていく。
失った過去を回復させる外部要因と脳内調節因子の解明
こころの時間の1 つである「過去」は、脳内の記憶システムによって成立している。長い期間の経過やアルツハイマー病などの神経変性疾患によって過去は失われる。しかし過去が失われたように思われた後でも、多くの場合は脳内に記憶痕跡が残存している。そのため、“ふとした瞬間”に過去が回復することがある。しかし失われたように思えた過去がどのような外部要因によって回復するのか、またその外部要因によって過去が回復する神経メカニズムは不明である。そこで本研究は、過去を想起できるか否かを調節する外部要因を特定し、その外部要因が想起を調節する神経回路メカニズムを解明することを目的として行う。特に、特定の細胞集団の活動を選択的に操作、測定し、精密に制御されている神経ネットワークのダイナミクスを明らかにし、「こころの時間」に関連する現象と神経活動の関係を明らかにすることを目指す。
長期記憶の時間生成を担う睡眠/覚醒サイクルにおける神経活動・シナプス動態
脳の神経回路は睡眠/覚醒サイクルにおいて常に再編されている。覚醒時の学習は神経細胞を活性化させ、シナプスの伝達効率を強化し、長期記憶を保持するシグナルを形成する。反対に、睡眠は興奮性の神経調節や平均シナプス強度を弱める。睡眠による平均シナプス強度の減弱は、脳回路をクールダウンさせて恒常性を保つ役割があると考えられている。しかし、従来のシナプス可塑性の研究は平均変化を捉えることが多かったため、睡眠が記憶の脳表現に与える影響はよく分かっていない。そこで、本研究は、マウスにおいて個々のシナプスレベルで光遺伝学実験を行い、記憶の脳表現の変容を解明する。
本研究を通じて、「記憶違いを生じるのは何故か?」「眠ると頭がスッキリするのは何故か?」「沢山勉強しても脳はパンクしないのか?」といった疑問に答えることを目標としている。
多点同時光計測によるドーパミン時計仮説の包括的検証
神経伝達物質ドーパミンは主観的な時間経過を制御していることが知られており,ヒトおよび実験動物における薬理学的研究から,「脳内ドーパミンレベルの上昇は主観的時間経過を加速させる(=時間を長く感じる)」という「ドーパミン時計仮説」が提唱されてきた。しかし,近年の最新技術を用いた研究において,一部のドーパミン神経の活動は,主観的な時間経過を早めるのではなく,むしろ遅くさせる(=時間を短く感じる)ことが明らかにされており,より詳細な検討が可能な実験技術によるドーパミン時計仮説の再検証が求められている。本研究は,蛍光ドーパミンセンサーとバンドルファイバーフォトメトリー法の組み合わせによる「多点同時ドーパミン光計測技術」と,「光遺伝学を用いたドーパミン神経活動操作技術」を用いることで,時間知覚とそれに基づいた報酬予測を制御するドーパミン放出動態を明らかにする。また,この研究を通して「楽しい時間はなぜ早く過ぎるのか」という疑問に対してもアプローチする。
社会的情報の影響を受ける時間処理における扁桃体と線条体の機能的結合形成
親や上司に怒られている時間は長く感じるのに、友人や恋人との楽しい時間は瞬く間に過ぎてしまうように、時間処理には情動系の関与があり、その1つとして社会的情報処理が挙げられる。本研究では、時間処理が社会的情報の影響を受ける脳神経基盤を明らかにすることを目指す。
時間処理に関与している脳領域の1つとして線条体が挙げられる。一方、社会的情報処理に重要な脳領域として扁桃体が挙げられる。扁桃体から線条体への強い神経投射が知られているため、扁桃体で処理された社会的情報が線条体に入力し、線条体における時間処理に影響を与えるという仮説を立てられる。本研究では、マカクザルを用いて、①社会的情報が時間弁別に及ぼす影響の行動解析、②扁桃体と線条体の機能連関について明らかにし、さらに、③扁桃体・線条体連関が社会的情報による時間処理への影響の神経基盤であることの解明を目的とする。
冬眠様状態の脳における時の流れの研究
マウス視床下部前腹側周室核のQRFP産生神経を特異的に刺激すると、36時間以上にわたる低体温・低代謝状態を誘導することが可能です。このマウスにおいては体温の設定値が大きく下がっているものの、体温制御機構は機能しており、制御された冬眠様状態と考えられます。脳の神経活動は通常より抑制され、意識も通常通りには機能していないと思われますが、最低限、生命維持に必要なシステムは機能しています。このような状態において脳内でどのように「時が刻まれているのか」、または「時が止まっているのか」、そうだとしたらどのように「時が動き出すのか」という問いは極めて興味深く、さらに将来的に臨床などへ応用されれば冬眠様状態における時の認知がどのように変容するかを理解する必要があります。本研究提案では、冬眠様状態を誘導したマウス脳における概日時計への影響、さらにマウスの時間認知がどのように変化するのかを調べ、代謝が著しく落ちた極限状態の脳における「時の流れ」に迫ります。